20歳になるかならないかの頃、
白い沈丁花を買いたいと思った。
生まれた時には既にいなかった祖父母の墓に
赤い沈丁花が植えられており、
ちょうど春彼岸の今頃に、
毎年よい香りをさせていたから、
白い沈丁花を対になるように植えたら、
もっと香りが強くなり、見た目にも美しいだろう、
そう、思ったからだ。
さすがに、庭に植えるのとは違うので、
両親に断っておかなければと思い、
計画を打ち明けたところ、母は「だめ」と一言。
父とはしばらく口をきけなくなった。
とても納得できるような状況ではなかったが、
反対されているのだということはわかった。
墓地に白い沈丁花を植える計画は、
自分の中で凍結しておけば良い。
そう、思っていた。
数年後に母から次の話を聞くまでは。
私が生まれる、およそ一年前に亡くなった祖母。
赤い沈丁花はその祖母が植えたもの。
それを提案する際に祖母は、
「春のお彼岸にみんながお墓参りをする頃、
とてもよい香りで花を咲かせるから、
この花をお墓に植えましょう」
と言ったそうだ。
そして、特に反対もなく沈丁花を植えると、
その香りを確かめるかのように
次の春彼岸には墓の中にいたという。
両親は私が祖母と同じことを言ったものだから、
私の寿命が来てしまったのかと思ったのだ。
もし、白い沈丁花を植えていたら、
私の人生は今の3分の1で終わっていたかもしれない。
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