ところてん、
心太なんて漢字を知ったのはいつだったか。
いずれにせよ、ところてんという食べ物は、冬のものだった。
温暖化が今ほどひどくなくっても、ところてんなんぞというものを、
どこかで作って運んで来て、店のおばちゃんが突いてくれる、
この流れの中に、気温が高いところがあってはならないからだ。
だから、冬にならないと、店にところてんはなかったのだ。
小学校に入る前、ある年の誕生日。
私はこの5円のところてんが食べたかった。
商売をしている実家は年末も忙しなく、
お小遣いだって日常的にもらうものではなかった。
(おやつは、茶箪笥にあるか、
なければそこにあるもので作り、
弟達にも食べさせていた)
親は衛生面で不安に思っていたようだが、
それを知っているからわざわざ誕生日なのだ。
案の定、誕生日だから特別に5円やろう、と母親、
その代わり、外の枯れ葉を掃き清めるように言われた。
朝からずっと曇り空の寒い日、
竹ぼうきを使って落ち葉を集めて山にし、大人に引き継ぐと、
かじかんだ手に冷たい5円玉をもらい、
穴が開いていたかどうかは覚えていないが、
おばちゃんの店に走って行った。
「おばちゃん、ところてん!」
共同水道の前の駄菓子屋に飛び込んで叫んだ。
おばちゃんは、「この寒いのに、
あれ? あんた、いいのかい?」
母親が絶対に買い与えないことを知っているから
おばちゃんは怪訝な顔。
「今日はいいの!誕生日だし、お手伝いもしたんだ!」
「辛子はどうする?」
「辛いの?」
なにせ、食べたことがないのだから、どんな味か知らないのだ。
「入れない方がよさそうだね」
はいよ、と渡された箸は1本、
うまくからめられず、小鉢に口をつけてかき込む。
ツンとくる酢の香り、冷たいところてん、そして容赦ない北風、
食べ終わると、家までフルスピードで駆け戻り炬燵に飛び込んだ。